赤とんぼ(アキアカネ)が消えそうです!
唱歌 「赤とんぼ」(三木露風作詞・山田耕筰作曲)に歌われたアキアカネ(トンボ科アカネ属)は、日本のコメ作りの歴史と共に生きて来たトンボですが、平地の場合、農業の近代化の中で、その姿を見るのは困難になっていましたが、ここへ来て中山間地の田んぼでもアキアカネの減少が起きていることに危機感を持ちました。
「そんなことないよ、うちの近くではたくさん飛んでいるよ。」との情報で現地確認すると、その9割強は、姿や大きさが良く似たウスバキトンボ(トンボ科ウスバキトンボ属)で、多くの人たちが赤とんぼ(アキアカネ)と勘違いしてられる事実があります。
↑ アキアカネの成熟した♂です。(写真の上で左クリックすると写真が拡大されます。以下同じです。)
↑ よく間違えられるウスバキトンボの♀です。 ♂も♀も成熟しても赤くなりません。
南方系のトンボで、東南アジアから世代交代しながら日本へ渡って来ます。
ほとんど止まることなく、広々したところを飛んでいます。止まるときは、アキアカネと違い、ぶら下がり型です。
私の住む竹村(愛知県豊田市、標高10~50mほど)でも、アキアカネは、ほ場整備の終わった20年ほど前から群れを見ることはなくなり、稲刈りの済んだ田んぼをつぶさに調べて、じゅくじゅくしたところで数頭見つかるくらいでしたが、今年は1頭も確認出来ていません。
↑ 豊田市の南部に位置する竹村の風景です。
奥(北側)に見える山は猿投山(さなげやま、標高 629m)で、その裏側は、せとものの産地・瀬戸市です。
↑ 竹村の中央部を南北に名鉄三河線が走っています。右手がたけむら駅方面です。
アキアカネ激減の理由として、トンボ研究者の方々は次の要因を挙げていて、私も同感です。
①乾田化のためにほ場整備したことで、産卵時期に、じゅくじゅくした田んぼが消えた。
→コンバインなどの大型農業用機械が田んぼに入れるように乾田化しました。
②減反政策による、休耕田や、麦、大豆、菜種などへの転作により、アキアカネの産卵適地が消えた。
→アキアカネは連結打泥産卵をするトンボで、かつての稲刈り後のじゅくじゅくした田んぼがベストでした。
③コメの品種改良に伴う多品種化で、アキアカネの生活史(注)と、コメ作りの農事暦にズレが生じた。
→産卵の時期に田んぼが乾燥していたり、孵化の時期に水が入ってないなど、ヤゴの生育に必要な水が確保されないなどの影響が出ています。
(注)アキアカネの生活史については、「神戸のトンボ」をご覧頂けば詳しく載っています。
④山間のたんぼにあっては、過疎化、高齢化などによる耕作放棄田の増加。
⑤平地にあっては、農地転用などによる田んぼそのものの減少。
⑥すべての生きものにボデーブローのように効いてくる農薬の使用。
⑦生きもののことを忘れた人間の良かれと行われる行為→景観を重視する余り、休耕田にヒマワリやコスモスを植えるなどの行為。このことでヤゴの生息場所や、トンボの産卵場所が奪われています。
かつては、稲刈りが済んだじゅくじゅくした田んぼにレンゲの種を蒔き、春、花を楽しんだ後、鋤き込んで肥料とした知恵が日本人にはありました。
などを上げることが出来ます。
それでも、ほ場整備されてない山間の田んぼの場合、田んぼの一部が年間を通じ、じゅくじゅくしていることが多く、アキアカネに産卵の場所を提供し、稲刈りの頃には、はざ干しの竿や、イネ、イノシシ避けの電気柵などに止まる無数のアキアカネを見ることが出来ていたのですが、ここへ来て、それら山間の田んぼにも異変が目立つようになりました。
以下は、私なりに友人たちの協力をいただきながら、山間の田んぼを回って確認した結果です。
■9月3日
「坂折の棚田」(岐阜県、標高410~600mほど)に出かけましたが、ウスバキトンボの群れは確認出来ましたが、アキアカネの姿は見れませんでした。
「坂折の棚田」は、乾田化はされてなく、昔ながらの等高線に添った曲線の美しい田んぼです。
品種は「ミネアサヒ」で、田植えは5月半ば~6月の始めで、田んぼに水が入るのは4月終り~5月始めとのことでした。
水入れが半月ほど早ければ、アキアカネの孵化に間に合い申し分ありませんが、山の田んぼですので、一部はじゅくじゅくしていますから、ヤゴがまったく育たない条件ではありません。
農薬も、棚田オーナー制を採っていることもあり、子どもや、一般市民の方も見えるので控えめとのことでした。
■9月4日
「坂折の棚田」にアキアカネがいなかったのが気掛かりだった私は、退院間もないため欠席することになっていた予定を変更し、コンパスくらぶの定例山行に急遽参加させてもらい、アキアカネが下界の暑さを避けて、まだ山の上にいるかを確認するため、「寧比曽岳」(愛知県、ねびそだけ 1121m)に登りました。
コンパスくらぶには、トンボ仲間もいて、その日は4人同行し、私を気遣ってくれました。感謝感謝です。
↑山頂の休憩舎から茶臼山(標高1415m)方面です。 中央にタカネトンボが写っています。
↑ 富士見峠です。冬場の晴れた日は富士山の頂が見えます。
↑ 山頂付近を群れ飛んでいたウスバキトンボです。 背景の山は猿投山です。
寧比曽岳は、例年、無数のアキアカネが夏の暑さを避けて群れていましたので、今年の異常な猛暑を避けてまだ山頂付近に留まっているのではとの可能性の確認でした。
結果は、尾根筋に、アキアカネの未成熟♀が1頭いただけで、山頂付近や、尾根筋を飛んでいたのは、「坂折の棚田」同様、ウスバキトンボ(トンボ科ウスバキトンボ属)の群れでした。
他には、ヒメアカネ、オニヤンマ、タカネトンボ?が数頭いました。
山の上にもいないとなると、何か異変が起きている可能性がありますので、かつて、アキアカネが無数にいた田んぼを確認して回りました。
■9月9日
「金蔵連の田んぼ」(愛知県、ごんぞうれ 標高570~620mほど)は、寧比曽岳の西の谷間にある小さな集落です。例年のようなアキアカネの群れは見れませんでしたが、10数頭のアキアカネが確認出来ました。
ここもウスバキトンボは群れていました。
↑ 町へ出ている息子さんたちの応援で、すでに稲刈りが済んでいた宗次さんの田んぼ。
今年は、宗次さんが2月に亡くなられたので、私たちが例年以上にお手伝いすべきだったのですが、私自身が5月末から体調を崩し、何のお手伝いも出来ませんでした。
↑ 金蔵連の集落の前の田んぼです。
■9月11日
「四谷の千枚田」(愛知県、標高220~430mほど)
↑ 「日本棚田100選」になっている「四谷の千枚田」です。
↑ 一部は稲刈りが行われていました。
アキアカネの姿はなく、無数のウスバキトンボが舞っていました。
■9月11日
「豊邦の田んぼ」(愛知県、標高470mほど)
↑ 左手の当貝津川と、右手の国道420線のあいだにある豊邦の田んぼです。 アキアカネが10数頭のほか、たくさんのミヤマアカネがいて、ウスバキトンボは少しだけいました。
↑ アキアカネの成熟した♀です。
↑ ミヤマアカネの成熟した♂です。
■9月12日
「桑田和の田んぼ」(愛知県、標高180mほど)
↑ 田んぼ右手の谷間を、奥(西)へ向かって足助川が流れています。
↑ 近くには自動車部品メーカーの工場もあり、家も点在しています。
スローライフと有機農業をやるため名古屋から移り住んだ知人の田んぼです。
かつては無数のアキアカネがいたのですが、群れているのはウスバキトンボだけで、アキアカネは皆無でした。
ミヤマアカネが数頭いました。
田植えは何かと忙しく、5月20日頃で、水入れはそれより少し前とのこと、アキアカネには少し遅かったです。
苗は、種籾から作らず、農協から購入とのことでした。
Yさんの田んぼからアキアカネが消えたねとの話に、驚いていました。
■9月13日
かつてアキアカネが群れていた旧足助町の山間の下記5ヶ所の田んぼを観て回りましたが、アキアカネは一頭も確認出来ませんでした。
「岩谷の田んぼ」(愛知県、標高340mほど)
↑ 「岩谷の田んぼです。」
アキアカネは皆無でウスバキトンボが群れ飛んでいました。
「百田の田んぼ」(愛知県、標高330~370mほど)
↑ 「百田の田んぼ」です。
アキアカネは皆無でウスバキトンボが群れ飛んでいました。
以前はたくさんいたノシメトンボも少数いるだけでした。 他にはマユタテアカネが数頭いました。
「百田東の田んぼ」(愛知県、標高410mほど)
↑ かつての田んぼです。
アキアカネは皆無でウスバキトンボが十数頭飛んでいました。
かつては、小さなため池が二つあり、小川もあることで、ちょっとしたトンボの楽園でしたが、2年前から耕作放棄されていて、ウスバキトンボ以外は、ノシメトンボ、ヒメアカネ、マユタテアカネが少数確認出来ただけでした。
「葛沢の田んぼ」(愛知県、つづらさわ、標高410~460mほど)
↑ 「葛沢の田んぼ」です。
アキアカネは皆無でウスバキトンボが群れ飛んでいました。
なお、ノシメトンボが少数いました。
「梨野の田んぼ」(愛知県、標高610~640mほど)
アキアカネは皆無でウスバキトンボが群れ飛んでいました。
他には、ノシメトンボとマユタテアカネ、ヒメアカネが少数いました。
■9月13日 プラスα
「新盛の田んぼ」 >」(愛知県、標高460mほど)
「桑田和の田んぼ」をやっている知人が、種籾から苗作りをやっている市民の田んぼがあるので、そこならいるかも…とのことで訪ねてみましたが、やはり、アキアカネは皆無で、群れているのはウスバキトンボだけでした。
聞けば、今年からスタートとのことですので、それまでの条件(不明)が、結果に働いていると思われます。
■9月15日
旧足助町の田んぼからアキアカネが消えていたので、より山奥の設楽町の田んぼを確認に行きました。
どの田んぼも、かつてはアキアカネが群れていたところです。
「東納庫の田んぼ」(愛知県、ひがしなぐら、標高650mほど)
アキアカネは皆無でしたが、ウスバキトンボが群れ飛ぶ中、たくさんのノシメトンボが連結産卵をしていました。
↑ ウスバキトンボの群れです。
↑ ウスバキトンボです。
↑ 稲刈りの済んでない田んぼで、連結打空産卵をするノシメトンボです。
同じアカネ属でも、種によって産卵形態が異なるため、多様な種が生きて行くためには、多様な生息環境が必要になるのです。
「市之瀬の田んぼ」(愛知県、標高690~700mほど)
↑東納庫から津具村向かう道筋の最後の集落「市之瀬」です。
奥三河の名山「碁盤石山」(標高1189m)の登山口になります。
↑アキアカネの成熟♀です。
↑アキアカネの成熟♂です。
↑アキアカネの成熟♂です。
たくさんのアキアカネがイノシシ避けの電気柵などに止まっていました。 ウスバキトンボも少数いました。
なお、当初、碁盤石山も登る予定でしたが、今にも雨が降りそうだったので登ることを諦め、
代わりに車で入れる面の木峠(標高1110mほど)付近でアキアカネを探しましたが、皆無でした。
■コメント
①稲刈り後、じゅくじゅくしたところが残る山間の田んぼも、アキアカネが消えたり、少なくなっています。
②今回確認した田んぼのほとんどは、「ミネアサヒ」と言う品種を栽培している関係で、田んぼへの水入れがやや遅く、アキアカネの孵化の時期とズレが認められましたので、出来れば、水入れを4月半ばに早めることで、孵化しやすくなるように思いました。
③もっとも危惧する要因は、育苗期に使われている農薬の影響で、今回確認した田んぼのほとんどが、苗を法人から買っていて、農家や市民の方々が、その実態をほとんど把握されてなかったことです。
中には、うちはほとんど農薬を使ってないと誇りにされていた方もいたのですが、事実を知り、ショックを受けてられました。
④体調や、日程のこともあり、ほとんどの田んぼの現地確認が一度きりでしたので、再度確認出来たらと思っています。
そして、来年以降も継続出来たらと思いますが、アキアカネの復活の見通しがないのが辛いところです。
また、当ブログを見られた方で、関心のある方は、自宅から行くことの出来る山間の田んぼでアキアカネがいるかの確認をされ、関係者への情報発信など、ご自分でも出来ることから始めていただけたら幸いです。
今回、自前で苗を作っていたのは、市之瀬と新盛の田んぼの一部だけで、他は、農協や、農業法人から購入されていました。
■提案
①購入苗の減農薬の依頼。(手間を掛けて、無農薬でやられるのがベストですが…)
苗を買う側として、農協や委託先の法人にお願いしてはいかがでしょうか。
②田んぼへの早めの水入れ。
4月半ばまでに水を入れていただけると助かります。
③山間の放置田の活用。
仮に、コメ作りは困難であっても、3人集まれば、田んぼのような水辺として維持出来ます。
■想い
私たち、『カエルの分校』は、10年ほど前から、高齢化などで耕作を止めた山間の田んぼをお借りして、カエルやトンボなどのなつかしい生きものたちが安心して次の世代も生き続けられるように、水辺として維持管理して来ましたが、それらは、平地の田んぼでの生きものが消えて行くことへの、自分たちで出来るせめてもの行動との想いでした。
ただ、今回の調査結果を見ると、山間の田んぼでも、なつかしい生きものの代表格のトンボ・アキアカネが消えかかっていることに愕然としました。
私たちが元気なうちに、若い方々へ、想いと維持管理のやり方を伝え、アキアカネなど、なつかしい生きものが消えないようにと願っています。
今回の結果は、単にアキアカネが消えるだけではなく、彼らと関連するたくさんのなつかしい生きものも消えることにつながります。
また、トンボやカエルは、害虫と言われる虫たちの捕食者でもありますので、彼らが消えることは、より農薬を使うことにもつながって行きますから、米作りに携わる関係者だけでなく、日本人全体が、それらの生きもののことも考え、生活の仕方を見直す必要を感じています。
数年前、唱歌 「赤とんぼ」の作詞者:三木露風の故郷、兵庫県竜野を訪ねましたが、歌のようなアキアカネが群れ飛ぶ情景は、最近は見られなくなったとのことで残念に思いましたが、復活のための取り組みも行われているとのことでした。
「秋津洲」(トンボの島)と言われた日本です。みんなが力を合わせ、何とかアキアカネを復活出来たらと願っています。
■追記
先日、(独)国立環境研究所化学環境研究領域からアキアカネ採取に関する依頼書が届きました。
内容は、夏場、山で過ごし、秋になると里へ戻って来る生活史を持つアキアカネから有害な化学物質が蓄積されている例が見つかっていることと、山間部でありながら比較的多く化学物質が存在する場所があり、山で過ごすアキアカネに、これらが蓄積しているようなので、N増し調査などのため、地域ごとに10頭ほどの♂のアキアカネを冷凍宅配便で送ってほしい…とのことです。 ♂にしたのは、全国的なアキアカネ減少に配慮したためのようです。
私たちの地域では、あまりにも数が減っているので、例え♂だけの捕獲であっても、今後のことを考えるとリスクが高く、とても10頭は送れそうになく、ご協力はしたいと思うのですが、悩むところです。
アキアカネを含むトンボ関連のタイムカプセルプロジェクトについては、下記HPを参照ください。(ただし、一般向け呼び掛けです。)
http://www.nies.go.jp/timecaps1/dragonfly/navi-top.htm
なお、近日中に、アキアカネとウスバキトンボの簡単な見分け方をアップしたいと思います。
「そんなことないよ、うちの近くではたくさん飛んでいるよ。」との情報で現地確認すると、その9割強は、姿や大きさが良く似たウスバキトンボ(トンボ科ウスバキトンボ属)で、多くの人たちが赤とんぼ(アキアカネ)と勘違いしてられる事実があります。
↑ アキアカネの成熟した♂です。(写真の上で左クリックすると写真が拡大されます。以下同じです。)
↑ よく間違えられるウスバキトンボの♀です。 ♂も♀も成熟しても赤くなりません。
南方系のトンボで、東南アジアから世代交代しながら日本へ渡って来ます。
ほとんど止まることなく、広々したところを飛んでいます。止まるときは、アキアカネと違い、ぶら下がり型です。
私の住む竹村(愛知県豊田市、標高10~50mほど)でも、アキアカネは、ほ場整備の終わった20年ほど前から群れを見ることはなくなり、稲刈りの済んだ田んぼをつぶさに調べて、じゅくじゅくしたところで数頭見つかるくらいでしたが、今年は1頭も確認出来ていません。
↑ 豊田市の南部に位置する竹村の風景です。
奥(北側)に見える山は猿投山(さなげやま、標高 629m)で、その裏側は、せとものの産地・瀬戸市です。
↑ 竹村の中央部を南北に名鉄三河線が走っています。右手がたけむら駅方面です。
アキアカネ激減の理由として、トンボ研究者の方々は次の要因を挙げていて、私も同感です。
①乾田化のためにほ場整備したことで、産卵時期に、じゅくじゅくした田んぼが消えた。
→コンバインなどの大型農業用機械が田んぼに入れるように乾田化しました。
②減反政策による、休耕田や、麦、大豆、菜種などへの転作により、アキアカネの産卵適地が消えた。
→アキアカネは連結打泥産卵をするトンボで、かつての稲刈り後のじゅくじゅくした田んぼがベストでした。
③コメの品種改良に伴う多品種化で、アキアカネの生活史(注)と、コメ作りの農事暦にズレが生じた。
→産卵の時期に田んぼが乾燥していたり、孵化の時期に水が入ってないなど、ヤゴの生育に必要な水が確保されないなどの影響が出ています。
(注)アキアカネの生活史については、「神戸のトンボ」をご覧頂けば詳しく載っています。
④山間のたんぼにあっては、過疎化、高齢化などによる耕作放棄田の増加。
⑤平地にあっては、農地転用などによる田んぼそのものの減少。
⑥すべての生きものにボデーブローのように効いてくる農薬の使用。
⑦生きもののことを忘れた人間の良かれと行われる行為→景観を重視する余り、休耕田にヒマワリやコスモスを植えるなどの行為。このことでヤゴの生息場所や、トンボの産卵場所が奪われています。
かつては、稲刈りが済んだじゅくじゅくした田んぼにレンゲの種を蒔き、春、花を楽しんだ後、鋤き込んで肥料とした知恵が日本人にはありました。
などを上げることが出来ます。
それでも、ほ場整備されてない山間の田んぼの場合、田んぼの一部が年間を通じ、じゅくじゅくしていることが多く、アキアカネに産卵の場所を提供し、稲刈りの頃には、はざ干しの竿や、イネ、イノシシ避けの電気柵などに止まる無数のアキアカネを見ることが出来ていたのですが、ここへ来て、それら山間の田んぼにも異変が目立つようになりました。
以下は、私なりに友人たちの協力をいただきながら、山間の田んぼを回って確認した結果です。
■9月3日
「坂折の棚田」(岐阜県、標高410~600mほど)に出かけましたが、ウスバキトンボの群れは確認出来ましたが、アキアカネの姿は見れませんでした。
「坂折の棚田」は、乾田化はされてなく、昔ながらの等高線に添った曲線の美しい田んぼです。
品種は「ミネアサヒ」で、田植えは5月半ば~6月の始めで、田んぼに水が入るのは4月終り~5月始めとのことでした。
水入れが半月ほど早ければ、アキアカネの孵化に間に合い申し分ありませんが、山の田んぼですので、一部はじゅくじゅくしていますから、ヤゴがまったく育たない条件ではありません。
農薬も、棚田オーナー制を採っていることもあり、子どもや、一般市民の方も見えるので控えめとのことでした。
■9月4日
「坂折の棚田」にアキアカネがいなかったのが気掛かりだった私は、退院間もないため欠席することになっていた予定を変更し、コンパスくらぶの定例山行に急遽参加させてもらい、アキアカネが下界の暑さを避けて、まだ山の上にいるかを確認するため、「寧比曽岳」(愛知県、ねびそだけ 1121m)に登りました。
コンパスくらぶには、トンボ仲間もいて、その日は4人同行し、私を気遣ってくれました。感謝感謝です。
↑山頂の休憩舎から茶臼山(標高1415m)方面です。 中央にタカネトンボが写っています。
↑ 富士見峠です。冬場の晴れた日は富士山の頂が見えます。
↑ 山頂付近を群れ飛んでいたウスバキトンボです。 背景の山は猿投山です。
寧比曽岳は、例年、無数のアキアカネが夏の暑さを避けて群れていましたので、今年の異常な猛暑を避けてまだ山頂付近に留まっているのではとの可能性の確認でした。
結果は、尾根筋に、アキアカネの未成熟♀が1頭いただけで、山頂付近や、尾根筋を飛んでいたのは、「坂折の棚田」同様、ウスバキトンボ(トンボ科ウスバキトンボ属)の群れでした。
他には、ヒメアカネ、オニヤンマ、タカネトンボ?が数頭いました。
山の上にもいないとなると、何か異変が起きている可能性がありますので、かつて、アキアカネが無数にいた田んぼを確認して回りました。
■9月9日
「金蔵連の田んぼ」(愛知県、ごんぞうれ 標高570~620mほど)は、寧比曽岳の西の谷間にある小さな集落です。例年のようなアキアカネの群れは見れませんでしたが、10数頭のアキアカネが確認出来ました。
ここもウスバキトンボは群れていました。
↑ 町へ出ている息子さんたちの応援で、すでに稲刈りが済んでいた宗次さんの田んぼ。
今年は、宗次さんが2月に亡くなられたので、私たちが例年以上にお手伝いすべきだったのですが、私自身が5月末から体調を崩し、何のお手伝いも出来ませんでした。
↑ 金蔵連の集落の前の田んぼです。
■9月11日
「四谷の千枚田」(愛知県、標高220~430mほど)
↑ 「日本棚田100選」になっている「四谷の千枚田」です。
↑ 一部は稲刈りが行われていました。
アキアカネの姿はなく、無数のウスバキトンボが舞っていました。
■9月11日
「豊邦の田んぼ」(愛知県、標高470mほど)
↑ 左手の当貝津川と、右手の国道420線のあいだにある豊邦の田んぼです。 アキアカネが10数頭のほか、たくさんのミヤマアカネがいて、ウスバキトンボは少しだけいました。
↑ アキアカネの成熟した♀です。
↑ ミヤマアカネの成熟した♂です。
■9月12日
「桑田和の田んぼ」(愛知県、標高180mほど)
↑ 田んぼ右手の谷間を、奥(西)へ向かって足助川が流れています。
↑ 近くには自動車部品メーカーの工場もあり、家も点在しています。
スローライフと有機農業をやるため名古屋から移り住んだ知人の田んぼです。
かつては無数のアキアカネがいたのですが、群れているのはウスバキトンボだけで、アキアカネは皆無でした。
ミヤマアカネが数頭いました。
田植えは何かと忙しく、5月20日頃で、水入れはそれより少し前とのこと、アキアカネには少し遅かったです。
苗は、種籾から作らず、農協から購入とのことでした。
Yさんの田んぼからアキアカネが消えたねとの話に、驚いていました。
■9月13日
かつてアキアカネが群れていた旧足助町の山間の下記5ヶ所の田んぼを観て回りましたが、アキアカネは一頭も確認出来ませんでした。
「岩谷の田んぼ」(愛知県、標高340mほど)
↑ 「岩谷の田んぼです。」
アキアカネは皆無でウスバキトンボが群れ飛んでいました。
「百田の田んぼ」(愛知県、標高330~370mほど)
↑ 「百田の田んぼ」です。
アキアカネは皆無でウスバキトンボが群れ飛んでいました。
以前はたくさんいたノシメトンボも少数いるだけでした。 他にはマユタテアカネが数頭いました。
「百田東の田んぼ」(愛知県、標高410mほど)
↑ かつての田んぼです。
アキアカネは皆無でウスバキトンボが十数頭飛んでいました。
かつては、小さなため池が二つあり、小川もあることで、ちょっとしたトンボの楽園でしたが、2年前から耕作放棄されていて、ウスバキトンボ以外は、ノシメトンボ、ヒメアカネ、マユタテアカネが少数確認出来ただけでした。
「葛沢の田んぼ」(愛知県、つづらさわ、標高410~460mほど)
↑ 「葛沢の田んぼ」です。
アキアカネは皆無でウスバキトンボが群れ飛んでいました。
なお、ノシメトンボが少数いました。
「梨野の田んぼ」(愛知県、標高610~640mほど)
アキアカネは皆無でウスバキトンボが群れ飛んでいました。
他には、ノシメトンボとマユタテアカネ、ヒメアカネが少数いました。
■9月13日 プラスα
「新盛の田んぼ」 >」(愛知県、標高460mほど)
「桑田和の田んぼ」をやっている知人が、種籾から苗作りをやっている市民の田んぼがあるので、そこならいるかも…とのことで訪ねてみましたが、やはり、アキアカネは皆無で、群れているのはウスバキトンボだけでした。
聞けば、今年からスタートとのことですので、それまでの条件(不明)が、結果に働いていると思われます。
■9月15日
旧足助町の田んぼからアキアカネが消えていたので、より山奥の設楽町の田んぼを確認に行きました。
どの田んぼも、かつてはアキアカネが群れていたところです。
「東納庫の田んぼ」(愛知県、ひがしなぐら、標高650mほど)
アキアカネは皆無でしたが、ウスバキトンボが群れ飛ぶ中、たくさんのノシメトンボが連結産卵をしていました。
↑ ウスバキトンボの群れです。
↑ ウスバキトンボです。
↑ 稲刈りの済んでない田んぼで、連結打空産卵をするノシメトンボです。
同じアカネ属でも、種によって産卵形態が異なるため、多様な種が生きて行くためには、多様な生息環境が必要になるのです。
「市之瀬の田んぼ」(愛知県、標高690~700mほど)
↑東納庫から津具村向かう道筋の最後の集落「市之瀬」です。
奥三河の名山「碁盤石山」(標高1189m)の登山口になります。
↑アキアカネの成熟♀です。
↑アキアカネの成熟♂です。
↑アキアカネの成熟♂です。
たくさんのアキアカネがイノシシ避けの電気柵などに止まっていました。 ウスバキトンボも少数いました。
なお、当初、碁盤石山も登る予定でしたが、今にも雨が降りそうだったので登ることを諦め、
代わりに車で入れる面の木峠(標高1110mほど)付近でアキアカネを探しましたが、皆無でした。
■コメント
①稲刈り後、じゅくじゅくしたところが残る山間の田んぼも、アキアカネが消えたり、少なくなっています。
②今回確認した田んぼのほとんどは、「ミネアサヒ」と言う品種を栽培している関係で、田んぼへの水入れがやや遅く、アキアカネの孵化の時期とズレが認められましたので、出来れば、水入れを4月半ばに早めることで、孵化しやすくなるように思いました。
③もっとも危惧する要因は、育苗期に使われている農薬の影響で、今回確認した田んぼのほとんどが、苗を法人から買っていて、農家や市民の方々が、その実態をほとんど把握されてなかったことです。
中には、うちはほとんど農薬を使ってないと誇りにされていた方もいたのですが、事実を知り、ショックを受けてられました。
④体調や、日程のこともあり、ほとんどの田んぼの現地確認が一度きりでしたので、再度確認出来たらと思っています。
そして、来年以降も継続出来たらと思いますが、アキアカネの復活の見通しがないのが辛いところです。
また、当ブログを見られた方で、関心のある方は、自宅から行くことの出来る山間の田んぼでアキアカネがいるかの確認をされ、関係者への情報発信など、ご自分でも出来ることから始めていただけたら幸いです。
今回、自前で苗を作っていたのは、市之瀬と新盛の田んぼの一部だけで、他は、農協や、農業法人から購入されていました。
■提案
①購入苗の減農薬の依頼。(手間を掛けて、無農薬でやられるのがベストですが…)
苗を買う側として、農協や委託先の法人にお願いしてはいかがでしょうか。
②田んぼへの早めの水入れ。
4月半ばまでに水を入れていただけると助かります。
③山間の放置田の活用。
仮に、コメ作りは困難であっても、3人集まれば、田んぼのような水辺として維持出来ます。
■想い
私たち、『カエルの分校』は、10年ほど前から、高齢化などで耕作を止めた山間の田んぼをお借りして、カエルやトンボなどのなつかしい生きものたちが安心して次の世代も生き続けられるように、水辺として維持管理して来ましたが、それらは、平地の田んぼでの生きものが消えて行くことへの、自分たちで出来るせめてもの行動との想いでした。
ただ、今回の調査結果を見ると、山間の田んぼでも、なつかしい生きものの代表格のトンボ・アキアカネが消えかかっていることに愕然としました。
私たちが元気なうちに、若い方々へ、想いと維持管理のやり方を伝え、アキアカネなど、なつかしい生きものが消えないようにと願っています。
今回の結果は、単にアキアカネが消えるだけではなく、彼らと関連するたくさんのなつかしい生きものも消えることにつながります。
また、トンボやカエルは、害虫と言われる虫たちの捕食者でもありますので、彼らが消えることは、より農薬を使うことにもつながって行きますから、米作りに携わる関係者だけでなく、日本人全体が、それらの生きもののことも考え、生活の仕方を見直す必要を感じています。
数年前、唱歌 「赤とんぼ」の作詞者:三木露風の故郷、兵庫県竜野を訪ねましたが、歌のようなアキアカネが群れ飛ぶ情景は、最近は見られなくなったとのことで残念に思いましたが、復活のための取り組みも行われているとのことでした。
「秋津洲」(トンボの島)と言われた日本です。みんなが力を合わせ、何とかアキアカネを復活出来たらと願っています。
■追記
先日、(独)国立環境研究所化学環境研究領域からアキアカネ採取に関する依頼書が届きました。
内容は、夏場、山で過ごし、秋になると里へ戻って来る生活史を持つアキアカネから有害な化学物質が蓄積されている例が見つかっていることと、山間部でありながら比較的多く化学物質が存在する場所があり、山で過ごすアキアカネに、これらが蓄積しているようなので、N増し調査などのため、地域ごとに10頭ほどの♂のアキアカネを冷凍宅配便で送ってほしい…とのことです。 ♂にしたのは、全国的なアキアカネ減少に配慮したためのようです。
私たちの地域では、あまりにも数が減っているので、例え♂だけの捕獲であっても、今後のことを考えるとリスクが高く、とても10頭は送れそうになく、ご協力はしたいと思うのですが、悩むところです。
アキアカネを含むトンボ関連のタイムカプセルプロジェクトについては、下記HPを参照ください。(ただし、一般向け呼び掛けです。)
http://www.nies.go.jp/timecaps1/dragonfly/navi-top.htm
なお、近日中に、アキアカネとウスバキトンボの簡単な見分け方をアップしたいと思います。
この記事へのコメント
いろんな方面での田んぼ調査、とても勉強になりました。ありがとうございます。
最近近所の赤トンボを観察し始めました。愛知在住です。
赤トンボといえばアキアカネだと思っていたので、とても驚いております。
また立ち寄らせていただきます。よろしくお願いいたします。
未熟のとき,両者は黄褐色なので胸の黒条が写るように撮ろうと思います。
結局,顔や胸が赤くならない方がアキアカネの♂と分かりました。
腹端の様子で雄雌が分かると初めて知りました。